最高裁判所第三小法廷 昭和55年(オ)528号 判決 1980年11月11日
上告人
日野雄三郎
上告人
斎藤吉郎
右両名訴訟代理人
木村賢三
中村新三郎
被上告人
山田喜一
右訴訟代理人
横山紀良
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人木村賢三の上告理由第一点について
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人が前橋地方法務局にした弁済供託をもつて債務履行地である群馬県吾妻郡吾妻町からみて相当の供託所に対する供託として有効であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第二点、第五点について
共同抵当の目的となつている数個の不動産の一部の賃借人であつても、債務者に代位して被担保債務の全額を弁済したときは、債務者に対する求償権の範囲内において、その債権者が債権の効力及び担保として有していた一切の権利を取得することができるのであつて、賃貸借の目的となつていない不動産に対する抵当権も当然に右権利に含まれるものと解すべきであるから、これと同旨の原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第三点について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。そして、右事実によれば、被上告人が上告人斎藤に対してした弁済提供は、元金及び遅延損害金に不足はないが競売費用に三〇〇円の不足があつたことが明らかであるところ、右不足額は弁済提供金一一四万九二四一円に対してきわめて僅少であるばかりでなく、原審が確定したところによれば、被上告人は後日右不足額を追加して弁済供託したというのであるから、右弁済提供は信義則に照らして有効であると解するのが相当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第四点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠関係及び説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(環昌一 横井大三 伊藤正己 寺田治郎)
上告代理人木村賢三の上告理由
第一点 法律解釈を誤りたる違法
一、原審は法律の解釈を誤り之を適用した違法がある。
二、原審は上告人の被上告人の弁済供託は民法四九五条に反し債権者の住所地の供託所に供託していない違法があるとの主張に対し、
債務の履行地は上告人の住所である群馬県吾妻郡吾妻町になるが、同町には供託所がないから同町以外の供託所に供託するほかないところ、地理的状況、交通の便などに則して判断すれば本局たる前橋地方法務局(群馬県前橋市所在)は被控訴人(上告人)斉藤の住所地からみて弁済供託をなすにつき相当の供託所に当たると解せられる。
もつとも右吾妻町に隣接する中之条町には供託所たる前橋地方法務局中之条支局が在し、距離的、時間的にみるかぎりでは右支局がいわゆる最寄りの供託所とみられるかの如きであるが、このことは直ちに前記本局をもつて弁済供託をなすについての相当の供託所であることを否定するものではない。
と判示している。
三、1 供託所については供託法第一条は供託物の種類に応じての管轄を定めておるが原則として土地管轄はないように思われる。
2 然し乍ら弁済供託については民法四九五条によつて供託所の土地管轄が定められ、供託すべき供託所が限定されている。
従つて弁済供託については債務履行地の供託所にしなければならないのである。
3 債務履行地は給付が現実になさるべき場所であつて、民法四八四条、商法五〇六条などによつて定まるのである。
4 大審院判決昭和七年(オ)第二六三四号同八年五月二十日判決(大審院民集一二巻一二一九頁)によれば供託所を決定する基準としての履行地は債務履行の場所である。最小行政区画内に存する供託所と判示しており、それと同趣旨の判決としては朝鮮高等法院判決大正十四年三月三日法律評論十四巻民四九八頁である。
5 独立最小行政区画とは一般には、市町村であり、東京都では特別区が之れに当る。
6 債務履行地である市町村に供託所のない場合にはもよりの供託所によればよいとの先例がある(大正十一年三月三日民事局長通達、昭和二三年八月二十日民事甲二三七八、民事局長通達)。
こゝにいう「もよりの供託所」とは地理的に近い供託所の意味と考えられるが、むしろ距離的、時間的、および経済的にみて債権者が当該供託物を受領するに最も便利な供託所と解すべきものである。
7 原審は此の点につき、債務履行地である吾妻町に隣接する中之条町には供託所である、前橋地方法務局中之条支局のあることを認めながら敢えて之を認めず、前橋地方法務局を相当な供託所として認めている。
8 債務履行地である吾妻町より中之条支局迄は距離四キロ弱であるのに、前橋地方法務局迄は四十キロ強の距離にある。
且つ、吾妻町より前橋市へ行くのには中之条町を通過して行くのであるから、距離的、時間的、経済的のどの見地より見るも前橋法務局は相当なる供託所でなく、中之条支局になすべきものである。
供託者自身も吾妻町居住であるから、態々四十キロも離れた前橋へ出て供託する理由もない。前橋地方法務局へ供託したのは供託者の代理人唯一人が前橋市に居住しておつたからである。それなのに前橋法務局が相当なる供託所とするのは法律の解釈を誤つたものである。
法務局の管轄区域から云つても吾妻町は前橋地方法務局中之条支局の管轄区域にして、本庁である前橋地方法務局の管轄ではない。
9 供託所を誤つた本件供託は無効であつて代位権も発生しないのであるから判決の結果に影響を及ぼすことは当然であり破毀さるべきものである。
10 原審は本件供託を前橋地方法務局が受付けしたことを取上げておるけれども、履行地に供託所のない場合には何処かもよりの供託所か容易には決し難い問題であり、結局は裁判所が定むべきものであつて、供託官吏によつて定められるべきものではない。
本件供託は違法な供託なることは論をまたない。
第二点〜第五点<省略>